谷中の秋の夕暮は淋しく、江戸とは名ばかり、このあたりは大竹藪風にざわつき、鶯ならぬむら雀の初音町のはずれ、薄暗くじめじめした露路を通り抜けて、額におしめの滴を受け、かぼちゃの蔓を跨ぎ越え、すえ葉も枯れて生垣に汚くへばりついている朝顔の実一つ一つ取り集めている婆の、この種を植えてまた来年のたのしみ、と来年どころか明日知れぬ八十あまりらしい見るかげも無き老躯を忘れて呟いている慾の深さに、三人は思わず顔を見合せて呆れ、利左ひとりは、何ともない顔をして小腰をかがめ、婆さま、その朝顔の実を一つ二つわしの家へもわけて下さいまし、何だか曇ってまいりましていけませぬ、など近所のよしみ、有合せのつらいお世辞を言い、陰干しの煙草をゆわえた細縄の下をくぐって突き当りのあばらやの、窓から四歳の男の子が、やあれ、ととさまが、ぜぜ持ってもどらしゃった、と叫ぶもふびん、三人の足は一様に立ちすくんだ。
利左は平気を装い、
「ここだ、この家だ。