いや味を申し上げているのではありません。
眼夢、かくの如く、いまはつくづく無分別の出家遁世を後悔いたし、冬の吉野の庵室に寒さに震えて坐って居ります。
思えば、私の遁世は、何の意味も無く、ただ親兄弟を泣かせ、そなた様をはじめ友人一同にも、無用の発心やめ給え、と繁く忠告致されましたが、とめられると尚更、意地になって是が非でも出家遁世しなければならぬような気持ちになり、とめるな、とめるな、浮世がいやになり申した、明日ありと思う心の仇桜、など馬鹿な事を喚いて剃髪してしまいまして、それからすぐそっと鏡を覗いてみたら、私には坊主頭が少しも似合わず、かねがね私の最も軽蔑していた横丁の藪医者の珍斎にそっくりで、しかも私の頭のあちこちに小さい禿があるのを、その時はじめて発見仕り、うんざりして、実は既にその時から少し後悔していたのです。