立ち上って吉野山の冬景色を見渡しても、都の人たちが、花と見るまで雪ぞ降りけるだの、春に知られぬ花ぞ咲きけるだの、いい気持ちで歌っているのとは事違い、雪はやっぱり雪、ただ寒いばかりで、あの嘘つきの歌人めが、とむらむら腹が立って来ます。
このように寒くては、墨染の衣一枚ではとてもしのぎ難く、墨染の衣の上にどてらをひっかけ、犬の毛皮を首に巻き、坊主頭もひやひやしますので寝ても起きても頬被りして居ります。
この犬の毛皮は、この山の下に住む里人から熊の皮だとだまされて、馬鹿高い値段で買わされたのですが、尻尾がへんに長くてその辺に白い毛もまじっていますので、これは、白と黒のぶちの犬の皮ではないか、と後で里人に申しますと、その白いところは熊の月の輪という部分で、熊に依っては月の輪がお尻のほうについている、との返事で、あまりの事に私も何とも言葉が出ませんでした。