このやうな自己嫌悪を、お酒を飲みすぎた後には必ず、おそらくは数千回、繰り返して経験しながら、未だに酒を断然廃す気持にはなれないのである。
この酒飲みといふ弱点のゆゑに、私はとかく人から軽んぜられる。
世の中に、酒といふものさへなかつたら、私は或いは聖人にでもなれたのではなからうか、と馬鹿らしい事を大真面目で考へて、ぼんやり窓外の津軽平野を眺め、やがて金木を過ぎ、芦野公園といふ踏切番の小屋くらゐの小さい駅に着いて、金木の町長が東京からの帰りに上野で芦野公園の切符を求め、そんな駅は無いと言はれ憤然として、津軽鉄道の芦野公園を知らんかと言ひ、駅員に三十分も調べさせ、たうとう芦野公園の切符をせしめたといふ昔の逸事を思ひ出し、窓から首を出してその小さい駅を見ると、いましも久留米絣の着物に同じ布地のモンペをはいた若い娘さんが、大きい風呂敷包みを二つ両手にさげて切符を口に咥へたまま改札口に走つて来て、眼を軽くつぶつて改札の美少年の駅員に顔をそつと差し出し、美少年も心得て、その真白い歯列の間にはさまれてある赤い切符に、まるで熟練の歯科医が前歯を抜くやうな手つきで、器用にぱちんと鋏を入れた。