それだけのお金や品物が残っていたら、なに、あとはその人の創意工夫で、なんとかやって行けるものだ、田舎のお百姓さんたちにたよらず、立派に自力で更生の道を切りひらいて行くべきだと思う。
とこうまあ謂わば正論を以て一矢報いてやったのですね、そうすると、そのお隣りの細君が泣き出しましてね、私たちは何もいままで東京で遊んでいたわけじゃない、ひどい苦労をして来たんだ、とか何とか、まあ愚痴ですね、涙まじりにくどくど言って、うちの細君の創意工夫のアメリカソバをごちそうになって帰りましたが、どうも、あの疎開者というものは自分で自分をみじめにしていますね、おや、お帰りですか、まだよろしいじゃありませんか、リンゴ酒をさあどうぞ、まだだいぶ残っています、これ一本だけでもどうか召し上ってしまって下さい。
僕はどうせ飲まないのですから、そうですか、どうしてもお帰りになりますか、ざんねんですね。