それでも、兄は誇の高いお人でありますから、その女の子に、いやらしい色目を使ったり、下等にふざけたりすることは絶対にせず、すっとはいって、コーヒー一ぱい飲んで、すっと帰るということばかり続けて居りました。
或る晩、私とふたりで、その喫茶店へ行き、コーヒー一ぱい飲んで、やっぱり旗色がわるく、そのまま、すっと帰って、その帰途、兄は、花屋へ寄ってカーネーションと薔薇とを組合せた十円ちかくの大きな花束をこしらえさせ、それを抱えて花屋から出て、何だかもじもじしていましたので、私には兄の気持が全部わかり、身を躍らしてその花束をひったくり脱兎の如くいま来た道を駈け戻り喫茶店の扉かげに、ついと隠れて、あの子を呼びました。
「おじさん(私は兄を、そう呼んでいました。