その朝、父は私にも一緒に行くようにすすめて下さったのですが、私は何だか、こわくて、下唇がぷるぷる震えて、とてもお伺いする元気が出なかったのです。
父は、その晩、七時頃にお帰りになって、岩見さんは、まだお年もお若いのに、なかなか立派なお人だ、こちらの気持も充分にわかって下さって、かえって向うのほうから父にお詫びを言って、自分も本当は女のお子さんには、あまり文学をすすめたくないのだ、とおっしゃって、はっきり名前は言わなかったが、やはり柏木の叔父さんから再三たのまれて、やむなく父に手紙を書いた御様子であった、と父は、母と私に語って下さいました。
私は、父の手を、つねりましたら、父は、眼鏡の奥で、そっと眼をつぶって笑って見せました。