柏木の叔父さんは、その頃からまた、私の家へ、ほとんど毎日のようにお見えになり、私を勉強室へひっぱって行って、まず日記を書け、見たところ感じたところを、そのまま書いたら、それでもう立派な文学だ、等とおっしゃって、それから何やらむずかしい理窟をいろいろと言い聞かせるのですが、私には、てんで書く気が無かったので、いつも、いい加減に聞き流していました。
母は興奮しては、すぐ醒めるたちなので、その時の興奮も、ひとつきくらいつづいて、あとは、けろりとしていましたが、柏木の叔父さんだけは、醒めるどころか、こんどは、いよいよ本気に和子を小説家にしようと決心した、とか真顔でおっしゃって、和子は結局は、小説家になるより他に仕様のない女なのだ、こんなに、へんに頭のいい子は、とても、ふつうのお嫁さんにはなれない、すべてをあきらめて、芸術の道に精進するより他は無いんだ等と、父の留守の時には、大声で私と母に言って聞かせるのでした。
母も、さすがに、そんなにまで、ひどく言われると、いい気持がしないらしく、そうかねえ、それじゃ和子が可哀想じゃないか、と淋しそうに笑いながら言いました。