内にいると、そのおかみさんとめしたき女にいじめられるし、たまたま休みの日など外へ遊びに出ても、外にはまた、別種の手剛い意地悪の夜叉がいるのでございました。
あれは、私が東京へ出て一年くらい経った、なんでもじめじめ雨の降り続いている梅雨の頃の事と覚えていますが、柄でも無く、印刷所の若いほうの職工と二人で傘をさして吉原へ遊びに行き、いやもう、ひどいめに逢いました。
そもそも吉原の女と言えば、女性の中で最もみじめで不仕合せで、そうして世の同情と憐憫の的である筈でございましたが、実際に見学してみますると、どうしてなかなか勢力のあるもので、ほとんどもう貴婦人みたいにわがままに振舞い、私は呶鳴られはせぬかとその夜は薄氷を踏むが如く言語動作をつつしみ、心しずかにお念仏など申し生きた心地もございませんでした。