何の事だか、まるでナンセンスのようでございますが、しかし、感覚的にぞっとするほどイヤな、まるで地獄の妖婆の呪文みたいな、まことに異様な気持のする言葉で、あんな脳の悪い女でも、こんな不愉快きわまる戦慄の言葉を案出し投げつけて寄こす事が出来るとは、実に女性というものには、底の知れないおそろしいところがあるとつくづく感じ入りましたのでございます。
けれどもそれは、まあ、文学少女の、文学的な悪態で、二番目の女房の現実的な悪辣さに較べると、まだしも我慢が出来ると言っていいかも知れませんでございます。
この二番目の女房は、私が本郷に小さいミルクホールをひらいた時、給仕女として雇った女で、ミルクホールが失敗して閉鎖になってもそのままずるずると私のところに居ついてしまいまして、この女はまた金を欲しがる事、あたかも飢渇の狼の如く、私の詩の勉強などはてんで認めず、また私の詩の友人ひとりひとりに対する蔭口は猛烈をきわめ、まあ俗に言うしっかり者みたいな一面がありまして、私の詩の評判などはどうだってかまわない様子で、ただもう私の働きの無い事をののしり、自分ほど不仕合せの者は無いと言って歎き、たまに雑誌社の人が私のところに詩の註文を持って来てくれると、私をさし置いて彼女自身が膝をすすめて、当今の物価の高い事、亭主は愚図で頭が悪くて横着で一つも信頼の出来ぬ事、詩なんかではとても生活して行かれぬから、亭主をこれから鉄道に勤めさせようと思っている事、悪い詩の友だちがついているから亭主はこのままでは、ならず者になるばかりだろうという事、にこりともせず乱れた髪を掻きあげ掻きあげ、あたかもその雑誌社の人が仇敵か何かでもあるみたいに、ひどく憎々しげにまくしたてますので、わざわざ私の詩を頼みに来て下さる人たちも、イヤな顔をして、きっと私と女房と両方を軽蔑なさってしまうのでしょう、早々に退却してしまいます。