ナンジニ、セツプンヲオクル。
しかし、あの婆さんの教授は、私にこんな気が狂うくらいの大恐怖を与え、そうして私のさなきだに細く弱っていた詩の生命を完全にぷつっと絶ってしまった事にはたぶんお気附きなさる事もなく、いやいや、お気附きになったら、かえってお得意そうにうっとりなさるのかも知れませんが、とにかく先年、安楽な大往生をとげられた様子でございます。
さて、もうだいぶ暗くもなってまいりましたので、私の愚かな経験談も、そろそろ終りに致したいと存じますが、之を要しまするに、世の女性というものは学問のある無しにかかわらず、異様なおそるべき残忍性を蔵しているもののようでございまして、そのくせまた、女子は弱いと言い、之をいたわってもらいたいと言い、そうかと思うと、男は男らしくあって欲しいと言い、男らしさとはいったいどんなものだか、大いに男らしいところを発揮して女に好かれようとすると、これは乱暴でいけないと言われ、そうして深刻な手痛い復讐をされて、もうどうしたらいいのか、こちらへ単身都落ちして来ましてからも、十年間、私は当然、弟の女房や、またその女房の妹だの叔母だの、何やらかやらの女どものために、複雑奇妙の攻撃を受け、この世に女のいるあいだは、私の身の置き場がどこにも無いのではなかろうかと、ほとほと手を焼いて居りましたら、このたび民主主義の黎明が訪れてまいりまして、新憲法に依って男女同権がはっきり決定せられましたようで、まことに御同慶のいたり、もうこれからは、女子は弱いなどとは言わせません、なにせ同権なのでございますからなあ、実に愉快、なんの遠慮も無く、庇うところも無く、思うさま女性の悪口を言えるようになって、言論の自由のありがたさも、ここに於いて極点に達した観がございまして、あの婆さん教授に依って詩の舌を根こそぎむしり取られました私も、まだ女性を訴える舌だけは、この新憲法の男女同権、言論の自由に依って許されている筈でございますから、私のこれからの余生は挙げて、この女性の暴力の摘発にささげるつもりでございます。