私は、その家の裏庭に面した六畳間を私の仕事部屋兼寝室として借り、それからもう一間、仏壇のある六畳間を妻子の寝室という事にしてもらって、普通の間代を定め、食費その他の事に就いても妻の里のほうで損をしないように充分に気をつけ、また、私に来客のある時には、その家の客間を使わずに、私の仕事部屋のほうにとおすという事にしていたのであるが、しかし、私は酒飲みであり、また東京から遊びに来るお客もちょいちょいあるし、里の権利を大いに重んずるつもりでいながら、つい申しわけのない結果になりがちの事が多かった。
義妹も、かえって私たちには遠慮をして、ずいぶん子供たちの世話もしてくれて、いちども、いやな正面衝突など無かったが、しかし、私たちには「家を喪った」者のヒガミもあるのか、やっぱり何か、薄氷を踏んで歩いているような気遣いがあった。
結局、里のほうにしても、また私たちにしても、どうもこの疎開という事は、双方で痩せるくらいに気骨の折れるものだという事に帰着するようである。