手にとるようによく見える、というが、そのときには、実際、お隣りの家の燃えている軒と、私の頬杖ついている窓縁とは、二間と離れていず、やがてお隣りの軒先の柿の木にさえ火が燃え移って、柿の枯葉が、しゃあと涼しい音たてて燃えては黒くちりちり縮み、その燃えている柿の一枝が、私の居る二階の窓から、ほんとうに、ちょっと手を伸ばせば、折り取れるところに在って、それこそ咫尺の間に於いて私は、火事を見ていたのである。
軒が燃え出すまでの、焔の順序が面白かった。
はじめ軒端を伝って、ちょろちょろ、まるで鼠のように、青白い焔が走って、のこぎりの歯の形で、三角の小さい焔が一列に並んでぽっと、ガス燈が灯るように軒端に灯って、それから、ふっと消える。