信濃の山奥の温泉に宿をとり、それからまる一年間、あの子は、降っても照っても父のお伴して山を歩きまわり、日が暮れて宿へかえっては、父の言うこと、それは芝居と思えないほど、熱心に聞いて、ふたりで何かと研究し、相談し、あしたは大丈夫だ、あしたは大丈夫だと、お互い元気をつけ合って、そうして寝て、また朝早く、山へ出かけて、ほうぼう父に引っぱりまわされ、さんざ出鱈目の説明聞かされて、それでも、いちいち深くうなずいて、へとへとになって帰って来ました。
何もかも、朝太郎のおかげです。
父は、山宿で一年、張り合いのある日をつづけることができて、女房、子供にも、立派に体面保って、恥を見せずに安楽な死に方を致しました。