おかみさんは心配して、峠の麓の吉田へ行き、炬燵をひとつ買つて来た。
私は二階の部屋でそれにもぐつて、この茶店の人たちの親切には、しんからお礼を言ひたく思つて、けれども、もはやその全容の三分の二ほど、雪をかぶつた富士の姿を眺め、また近くの山々の、蕭条たる冬木立に接しては、これ以上、この峠で、皮膚を刺す寒気に辛抱してゐることも無意味に思はれ、山を下ることに決意した。
山を下る、その前日、私は、どてらを二枚かさねて着て、茶店の椅子に腰かけて、熱い番茶を啜つてゐたら、冬の外套着た、タイピストでもあらうか、若い知的の娘さんがふたり、トンネルの方から、何かきやつきやつ笑ひながら歩いて来て、ふと眼前に真白い富士を見つけ、打たれたやうに立ち止り、それから、ひそひそ相談の様子で、そのうちのひとり、眼鏡かけた、色の白い子が、にこにこ笑ひながら、私のはうへやつて来た。