私は機械のことには、あまり明るくないのだし、写真の趣味は皆無であり、しかも、どてらを二枚もかさねて着てゐて、茶店の人たちさへ、山賊みたいだ、といつて笑つてゐるやうな、そんなむさくるしい姿でもあり、多分は東京の、そんな華やかな娘さんから、はいからの用事を頼まれて、内心ひどく狼狽したのである。
けれども、また思ひ直し、こんな姿はしてゐても、やはり、見る人が見れば、どこかしら、きやしやな俤もあり、写真のシャッタアくらゐ器用に手さばき出来るほどの男に見えるのかも知れない、などと少し浮き浮きした気持も手伝ひ、私は平静を装ひ、娘さんの差し出すカメラを受け取り、何気なささうな口調で、シャッタアの切りかたを鳥渡たづねてみてから、わななきわななき、レンズをのぞいた。
まんなかに大きい富士、その下に小さい、罌粟の花ふたつ。