運転手さん、四谷で馬鹿がひとり降りるぜ。
女の心を、いたずらに試みるものではありませんね。
僕は、あの笠井氏から、あまりにも口汚く罵倒せられ、さすがに口惜しく、その鬱憤が恋人のほうに向き、その翌日、おかみが僕の社におどおど訪ねて来たのを冷たくあしらい、前夜の屈辱を洗いざらい、少しく誇張さえまぜて言って聞かせて、僕も男として、あれだけ面罵せられたのだから、もうこの上は意地になっても、僕はお前とわかれて、そうしてあの酒乱の笠井氏を見かえしてやらなければならぬ、と実は、わかれる気なんかみじんも無かったのに、一つにはまた、この際、彼女の恋の心の深さをこころみたい気持もあって、まことしやかに言い渡したのでした。