一枚の葉書の始末に窮して、机の上に置きそれに向ってきちんと正坐してみても落ち附かず、その葉書を持って立ち上り、部屋の中をうろうろ歩き廻ってみても、いよいよ途方に暮れるばかりで、いっそ何気なさそうな顔をして部屋の隅の状差しに、その持てあました葉書を押し込んで、フンといった気持で畳の上にごろりと寝ころんでもみましたが、一向に形が附かず、また起き上ってその葉書を状差しから引き抜き、短かすぎる文面を小声で読んで、淋しく、とうとう二つに折って、懐深くねじ込み、どうやら少し落ち附いた気持になって、机に向い、またもやあなたにこんな失礼な手紙を書きしたためて居ります。
先日は、実に、だらしない手紙を差し上げ、まことに失礼いたしました。
あの夜、あの手紙を書き上げて、そのまま翌る朝まで机の上に載せて置いたならば、或いは、心が臆して来て、出せなくなるのではないかと思い、深夜、あの手紙を持って野道を三丁ほど、煙草屋の前のポストまで行って来ましたが、ひどく明るい月夜で、雲が、食べられるお菓子の綿のように白くふんわり空に浮いていて、深夜でもやっぱり白雲は浮いて、ゆるやかに流れているのだという事をはじめて発見し、けれどもこんな甘い発見に胸を躍らせるのも、もうこの後はあるまい、今夜が最後だ、最後だ、最後だと、一歩一歩、最後だという言葉ばかりを胸の中で呟きつづけて家へ帰りました。