あの夜、あの手紙を書き上げて、そのまま翌る朝まで机の上に載せて置いたならば、或いは、心が臆して来て、出せなくなるのではないかと思い、深夜、あの手紙を持って野道を三丁ほど、煙草屋の前のポストまで行って来ましたが、ひどく明るい月夜で、雲が、食べられるお菓子の綿のように白くふんわり空に浮いていて、深夜でもやっぱり白雲は浮いて、ゆるやかに流れているのだという事をはじめて発見し、けれどもこんな甘い発見に胸を躍らせるのも、もうこの後はあるまい、今夜が最後だ、最後だ、最後だと、一歩一歩、最後だという言葉ばかりを胸の中で呟きつづけて家へ帰りました。
翌る朝、朝ごはんを食べながら、呻くばかりでありました。
くだらない手紙を差し上げた事を、つくづく後悔しはじめたのです。