私はあの日、もう東京へ帰ろうかと思っていたのです。
一週間も滞在して、いちまいも書けず、宿賃が一泊五円として、もうそろそろ五十円では支払いが心細くなっていますし、きょうあたり会計をしてもらって、もし足りなかったら家へ電報を打たなければなるまい、ばかな事になったものだと、つくづく自分のだらし無さに呆れて、厭気がさしていた矢先に、霹靂の如くあなたが出現なさったので、それこそ、実感として「足もとから鳥が飛び立った」ような、くすぐったい、尻餅をついてみたい程の驚きを感じたのです。
それから二日間、あの宿で、あなたと共に起居して、私は驚嘆の連続でした。