二日あなたのお傍で遊ばせていただき、あなたに、あまり宿賃のお世話になるのも心苦しい事でしたので、私だけ先に、失礼して帰京いたしましたが、あなたは、あれから、信州のほうへお廻りになるとか、おっしゃって居られましたけれど、もうそろそろ涼しくなってまいりましたから、御帰京なさって居られる頃と存じます。
夢のような気が致します。
二十年間、一日もあなたの事を忘れず、あなたの文章は一つも余さず読んで、いつもあなた一人を目標にして努力してまいりましたが、一夜の興奮から、とうとう手紙を差し上げ、それからはまるで逆上したように遮二無二あなたに飛び附いて、叱られ、たたかれても、きゃんきゃん言ってまつわり附いて、とうとうあなたと温泉宿で一緒に遊ぶという程の意外な幸福を得たという事は、いま思うと悲しい夢のような気がするのです。