自分のその当時の気持としては、党員になって捕えられ、たとい終身、刑務所で暮すようになったとしても、平気だったのです。
世の中の人間の「実生活」というものを恐怖しながら、毎夜の不眠の地獄で呻いているよりは、いっそ牢屋のほうが、楽かも知れないとさえ考えていました。
父は、桜木町の別荘では、来客やら外出やら、同じ家にいても、三日も四日も自分と顔を合せる事が無いほどでしたが、しかし、どうにも、父がけむったく、おそろしく、この家を出て、どこか下宿でも、と考えながらもそれを言い出せずにいた矢先に、父がその家を売払うつもりらしいという事を別荘番の老爺から聞きました。