けれども、そのひとは、言葉で「侘びしい」とは言いませんでしたが、無言のひどい侘びしさを、からだの外郭に、一寸くらいの幅の気流みたいに持っていて、そのひとに寄り添うと、こちらのからだもその気流に包まれ、自分の持っている多少トゲトゲした陰鬱の気流と程よく溶け合い、「水底の岩に落ち附く枯葉」のように、わが身は、恐怖からも不安からも、離れる事が出来るのでした。
あの白痴の淫売婦たちのふところの中で、安心してぐっすり眠る思いとは、また、全く異って、(だいいち、あのプロステチュウトたちは、陽気でした)その詐欺罪の犯人の妻と過した一夜は、自分にとって、幸福な(こんな大それた言葉を、なんの躊躇も無く、肯定して使用する事は、自分のこの全手記に於いて、再び無いつもりです)解放せられた夜でした。
しかし、ただ一夜でした。