三月末の或る夕方、ヒラメは思わぬもうけ口にでもありついたのか、または何か他に策略でもあったのか、(その二つの推察が、ともに当っていたとしても、おそらくは、さらにまたいくつかの、自分などにはとても推察のとどかないこまかい原因もあったのでしょうが)自分を階下の珍らしくお銚子など附いている食卓に招いて、ヒラメならぬマグロの刺身に、ごちそうの主人みずから感服し、賞讃し、ぼんやりしている居候にも少しくお酒をすすめ、
「どうするつもりなんです、いったい、これから」
自分はそれに答えず、卓上の皿から畳鰯をつまみ上げ、その小魚たちの銀の眼玉を眺めていたら、酔いがほのぼの発して来て、遊び廻っていた頃がなつかしく、堀木でさえなつかしく、つくづく「自由」が欲しくなり、ふっと、かぼそく泣きそうになりました。