決して、その貧しさを軽蔑したのではありません。
(自分は、その時それを、不味いとは思いませんでしたし、また、老母の心づくしも身にしみました。
自分には、貧しさへの恐怖感はあっても、軽蔑感は、無いつもりでいます)あのおしること、それから、そのおしるこを喜ぶ堀木に依って、自分は、都会人のつましい本性、また、内と外をちゃんと区別していとなんでいる東京の人の家庭の実体を見せつけられ、内も外も変りなく、ただのべつ幕無しに人間の生活から逃げ廻ってばかりいる薄馬鹿の自分ひとりだけ完全に取残され、堀木にさえ見捨てられたような気配に、狼狽し、おしるこのはげた塗箸をあつかいながら、たまらなく侘びしい思いをしたという事を、記して置きたいだけなのです。