あいにく自分のところにも、お金が無かったので、例に依って、ヨシ子に言いつけ、ヨシ子の衣類を質屋に持って行かせてお金を作り、堀木に貸しても、まだ少し余るのでその残金でヨシ子に焼酎を買わせ、アパートの屋上に行き、隅田川から時たま幽かに吹いて来るどぶ臭い風を受けて、まことに薄汚い納涼の宴を張りました。
自分たちはその時、喜劇名詞、悲劇名詞の当てっこをはじめました。
これは、自分の発明した遊戯で、名詞には、すべて男性名詞、女性名詞、中性名詞などの別があるけれども、それと同時に、喜劇名詞、悲劇名詞の区別があって然るべきだ、たとえば、汽船と汽車はいずれも悲劇名詞で、市電とバスは、いずれも喜劇名詞、なぜそうなのか、それのわからぬ者は芸術を談ずるに足らん、喜劇に一個でも悲劇名詞をさしはさんでいる劇作家は、既にそれだけで落第、悲劇の場合もまた然り、といったようなわけなのでした。