あの小男の商人と、ヨシ子とのあいだに、少しでも恋に似た感情でもあったなら、自分の気持もかえってたすかるかも知れませんが、ただ、夏の一夜、ヨシ子が信頼して、そうして、それっきり、しかもそのために自分の眉間は、まっこうから割られ声が嗄れて若白髪がはじまり、ヨシ子は一生おろおろしなければならなくなったのです。
たいていの物語は、その妻の「行為」を夫が許すかどうか、そこに重点を置いていたようでしたが、それは自分にとっては、そんなに苦しい大問題では無いように思われました。
許す、許さぬ、そのような権利を留保している夫こそ幸いなる哉、とても許す事が出来ぬと思ったなら、何もそんなに大騒ぎせずとも、さっさと妻を離縁して、新しい妻を迎えたらどうだろう、それが出来なかったら、所謂「許して」我慢するさ、いずれにしても夫の気持一つで四方八方がまるく収るだろうに、という気さえするのでした。