酒の誘惑には私は極度にもろかった。
二人で出て、かねて私の馴染のおでんやに行き、亭主に二階の静かな部屋を貸してもらうように頼んだが、あいにくその日は六月の一日で、その日から料理屋が全部、自粛休業とかをする事になっているのだそうで、どうもお座敷を貸すのはまずい、という亭主の返辞で、それならば、君のところに前から手持のお酒で売れ残ったものがないか、それをゆずって貰いたい、と私は言い、亭主から日本酒を一升売ってもらって、私たち二人は何のあてどもなく、一升瓶をさげて初夏の郊外を歩き廻った。
ふと、思いついて、あのひとのお宅のほうへ歩いて行った。