祭壇の上には、黒牛の皮で作られたおそろしく大きな釜が置かれて、その釜の中には熱湯が、火の気も無いのに、沸々と煮えたぎって吹きこぼれるばかりの勢いでありました。
老婆は髪を振り乱しその大釜の周囲を何やら呪文をとなえながら駈けめぐり駈けめぐり、駈けめぐりながら、数々の薬草、あるいは世にめずらしい品々をその大釜の熱湯の中に投げ込むのでした。
たとえば、太古より消える事のなかった高峯の根雪、きらと光って消えかけた一瞬まえの笹の葉の霜、一万年生きた亀の甲、月光の中で一粒ずつ拾い集めた砂金、竜の鱗、生れて一度も日光に当った事のないどぶ鼠の眼玉、ほととぎすの吐出した水銀、蛍の尻の真珠、鸚鵡の青い舌、永遠に散らぬ芥子の花、梟の耳朶、てんとう虫の爪、きりぎりすの奥歯、海底に咲いた梅の花一輪、その他、とても此の世で入手でき難いような貴重な品々を、次から次と投げ込んで、およそ三百回ほど釜の周囲を駈けめぐり、釜から立ち昇る湯気が虹のように七いろの色彩を呈して来た時、老婆は、ぴたりと足をとどめ、「ラプンツェル!