太郎が十歳になったとしの秋、村は大洪水に襲われた。
村の北端をゆるゆると流れていた三間ほどの幅の神梛木川が、ひとつき続いた雨のために怒りだしたのである。
水源の濁り水は大渦小渦を巻きながらそろそろふくれあがって六本の支流を合せてたちまち太り、身を躍らせて山を韋駄天ばしりに駈け下りみちみち何百本もの材木をかっさらい川岸の樫や樅や白楊の大木を根こそぎ抜き取り押し流し、麓の淵で澱んで澱んでそれから一挙に村の橋に突きあたって平気でそれをぶちこわし土手を破って大海のようにひろがり、家々の土台石を舐め豚を泳がせ刈りとったばかりの一万にあまる稲坊主を浮かせてだぶりだぶりと浪打った。