彼が渡支してから、もう五年。
けれども、その五年のあいだに、彼と私とは、しばしば音信を交していた。
彼の音信に依れば、古都北京は、まさしく彼の性格にぴったり合った様子で、すぐさま北京の或る大会社に勤め、彼の全能力をあますところなく発揮して東亜永遠の平和確立のため活躍しているという事で、私は彼のそのような誇らしげの音信に接する度毎に、いよいよ彼に対する尊敬の念をあらたにせざるを得なかったわけであったが、私には故郷の老母のような愚かな親心みたいなものもあって、彼の大抱負を聞いて喜ぶと共に、また一面に於いては、ハラハラして、とにかくまあ、三日坊主ではなく、飽かずに気長にやって下さい、からだには充分に気をつけて、阿片などは絶対に試みないように、というひどく興醒めの現実的の心配ばかり彼に言ってやるので、彼も面白くなくなったか、私への便りも次第に少くなって来た。