大隅君の厳父には、私は未だお目にかかった事は無いが、美事な薬鑵頭でいらっしゃるそうで、独り息子の忠太郎君もまた素直に厳父の先例に従い、大学を出た頃から、そろそろ前額部が禿げはじめた。
男子が年と共に前額部の禿げ上るのは当り前の事で、少しも異とするに及ばぬけれど、大隅君のは、他の学友に較べて目立って進捗が早かった。
そうしてそれが、やがて大隅君のあの鬱然たる風格の要因にさえなった様子であったが、思いやりの深い山田勇吉君は、或る時、見かねて、松葉を束にしてそれでもって禿げた部分をつついて刺戟すると毛髪が再生して来るそうです、と真顔で進言して、かえって大隅君にぎょろりと睨まれた事があった。