しかし私は、その娘の無責任きはまる放言を聞いて、或る暗示を與へられた。
この子は、何も知らずにただ、このごろ覺えた言葉を出鱈目に呟いただけの事であるが、しかし、父はその言葉に依つて、なるほど、これでは少し兎の仕打がひどすぎる、こんな小さい子供たちなら、まあ何とか言つてごまかせるけれども、もつと大きい子供で、武士道とか正々堂々とかの觀念を既に教育せられてゐる者には、この兎の懲罰は所謂「やりかたが汚い」と思はれはせぬか、これは問題だ、と愚かな父は眉をひそめたといふわけである。
このごろの繪本のやうに、狸が婆さんに單なる引掻き傷を與へたくらゐで、このやうに兎に意地惡く飜弄せられ、脊中は燒かれ、その燒かれた個所には唐辛子を塗られ、あげくの果には泥舟に乘せられて殺されるといふ悲慘の運命に立ち到るといふ筋書では、國民學校にかよつてゐるほどの子供ならば、すぐに不審を抱くであらう事は勿論、よしんば狸が、不埒な婆汁などを試みたとしても、なぜ正々堂々と名乘りを擧げて彼に膺懲の一太刀を加へなかつたか。