それに反して、ああ、あの家はなんて氣持のよい家だらう、ほとんどわが家同然だ、いや、わが家以上に居心地がよい、我輩の唯一の憇ひの巣だ、なんともあの家へ行くのは樂しみだ、などといい氣分で出かける家に於いては、諸君は、まづたいてい迷惑がられ、きたながられ、恐怖せられ、襖の陰に帚など立てられてゐるものである。
他人の家に、憇ひの巣を期待するのが、そもそも馬鹿者の證據なのかも知れないが、とかくこの訪問といふ事に於いては、吾人は驚くべき思ひ違ひをしてゐるものである。
格別の用事でも無い限り、どんな親しい身内の家にでも、矢鱈に訪問などすべきものでは無いかも知れない。