私は多少でも自分で實際に經驗した事で無ければ、一行も一字も書けない甚だ空想が貧弱の物語作家である。
それで、この桃太郎物語を書くに當つても、そんな見た事も無い絶對不敗の豪傑を登場させるのは何としても不可能なのである。
やはり、私の桃太郎は、小さい時から泣蟲で、からだが弱くて、はにかみ屋で、さつぱり駄目な男だつたのだが、人の心情を破壞し、永遠の絶望と戰慄と怨嗟の地獄にたたき込む惡辣無類にして醜怪の妖鬼たちに接して、われ非力なりと雖もいまは默視し得ずと敢然立つて、黍團子を腰に、かの妖鬼たちの巣窟に向つて發足する、とでもいふやうな事になりさうである。